歯科に金属が使用される理由
金銀パラジウム合金や、アマルガムなどの金属を用いた歯科治療は保険適用の治療となっていますが、そもそもどうしてこれほどまで歯科治療でこれらの金属が用いられてきたのでしょうか。
その背景には、戦後の厳しい経済的事情によるところが大きいようで、金銀パラジウム合金やアマルガムなどの金属は、決して健康に良いからという理由で保険適用になったわけではありません。
『GPのための金属アレルギー臨床』(井上昌幸監修)には、以下のような記載があります。
“1960年頃、戦後の厳しい経済情勢下のわが国の歯科界では、低廉な「銅亜鉛合金」を代用金属として保険診療にも採用しようとする動きが出てきた。金属の腐食の点から見ると、きわめて過酷な環境の口腔内に使用する金属は、化学的、生物学的に安定した金、ないしは貴金属合金でなければならない。
日本補綴歯科医学会は銅亜鉛合金が歯科用として採用されることを阻止する為に、「歯科用金属規格委員会」を設置し、歯科用合金の規格とテスト法ならびに各種合金の評価を行った。
こうした学会の活動によって、銅亜鉛合金の歯科臨床への導入は避けることができた。また、同委員会は、歯科用合金としては金合金を使用するのが本筋で、総医療費や日本の経済力から見て代用合金の使用もやむを得ないが、その際でも、金銀パラジウム合金をもって代用合金の許容限界とし、しかもできるだけ早い時期に金合金に移行すべきであることを、委員会報告書で発表した。”
このようなことから、戦後の厳しい経済事情下のあくまで代用品として認定されてきたということだけで、
本来使用すべき金合金が使用できなかったための苦肉の策というのが本当の理由のようですが、経済状況が好転した現代まで見直されることはなく、保険材料として使用され続けてきた、というのが現状です。
アマルガム
「アマルガム」は銀・スズ・銅・亜鉛の粉末と無機水銀との合金で、重量換算では約半分が重金属である水銀によって構成されています。むし歯を治療したあとの充填用に用いられる金属のひとつで、正式な名称では「歯科用水銀アマルガム」と呼ばれます。
日本では健康保険の適用材料として国から認定されているアマルガムですが、諸外国では歯科治療で使用禁止する動きがあり、実際にスウェーデンとイギリスではすでに使用禁止となっている金属で、ドイツでも特に幼児及び妊婦に使用を避けるよう勧告されています。
アマルガムは口の中で徐々に劣化してしまい、溶け出した水銀などが体内で蓄積されていきます。
研究では、歯科治療に使用したアマルガムは3年以内に腐食の兆しが現れるとされ、10年後には平均で総重量の約73%が減少するとも報告されています。
特に1970年代にむし歯の治療で、多く使用されてきました。
金銀パラジウム合金
医療先進国であるドイツではアマルガムと同様に、歯科業界に対して幼児や妊婦へ銅を含有する「パラジウム合金」の使用を避けるように、保健省によって勧告されています。
パラジウムを含まない“パラジウムフリー”の金属を使うことが、強く推奨しているのです。
現在、日本の保健適用で主に使用されている金属である「金銀パラジウム合金」ですが、パラジウムが体に与える悪影響を無視することはできません。
「リンパ球幼若化テスト」という金属アレルギーの検査では、約半数の人に陽性反応が出てしまっており、金属アレルギーの発症リスクが非常に高い金属です。
銀合金
「銀合金」もまた歯科治療でよく用いられる金属のひとつです。
しかし、シルバーアクセサリーが時間の経過とともに変色して黒ずんでくるように、歯科治療用の銀合金もお口の中で同様の劣化を見せます。特にお口の中は常に湿っており、温度も高く保たれているといった理由から、通常の空気中よりも早く酸化してしまうという点も、歯科治療で用いる金属として適切とは言い難いものがあります。
日本では銀合金を用いた歯科治療も保険適用の治療となっていますが、黒色に錆びてしまった銀を使用し続けると、溶け出した銀によって歯茎まで黒く変色させてしまうほか、体内へと取り込まれてしまうリスクがあり、当然、金属アレルギーなどの悪影響が懸念されます。