近年、歯科治療で用いられる金属が一因となって引き起こされる金属アレルギーが多く見られます。
金属アレルギーは直接金属と触れる肌がかぶれたりするだけでなく、全身でさまざまな不調を引き起こすケースもあります。
当院ではメタルフリーの取り組みをしていますが、すでにこうした症状を疑われている患者さまの治療も行います。
金属アレルギーとは
金属アレルギーに対して多くの方は、「金属に触ると肌が赤くかぶれる」「金属が当たるところに湿疹ができてかゆくなる」「結婚指輪ができない」といったイメージを強く持っているようです。
ネックレス、ペンダント、ピアス、腕時計などの金属製のアクセサリーを長時間つけて、皮膚がかぶれたことがある方や金属製アクセサリーをつけた箇所や、下着が触れている箇所の皮膚がかゆいという経験のある方は、一般的に金属アレルギーが疑われます。
しかし、そのほかにも普段から
- 頭痛
- 肩凝り
- めまいを起こしやすい
- 原因不明のじんま疹や湿疹
- 疲労感といった体調不良が続いている
- なんだかぼーっとする
- 物忘れ
- 記憶力や集中力の低下がひどい
という症状のある方も、金属アレルギーが原因となっている可能性があります。
特に花粉症をお持ちの方などは要注意です。ピアスの穴が化膿するというのも金属アレルギーが原因となっていることがあります。
これらの金属アレルギーの症状は、肌につけた金属が汗などの体液に触れることで反応して、アレルギー源となることで起きています。そのため、私たちの身の回りで金属アレルギーを引き起こすものとして、アクセサリー類やジーンズのボタンの裏側の金属部分など衣類、直接肌に触れやすいブラジャーのホックやワイヤーといった、あらゆる金属が原因として挙げられますが、化粧品や皮革製品、携帯電話、硬貨、豆やナッツ類で金属アレルギーを引き起こすことがありますので注意が必要です。
化粧品の場合は特にビューラーやアイライナーの口金、ファンデーション容器などの金属にアレルギー反応を起こす方が多く、皮革製品の場合では加工工程でクロムなどの金属が使われていることがあり、敏感な方はそれに反応してアレルギーが引き起こされます。また、豆やナッツといった食品にはニッケルが多く含まれており、それが汗となってしみ出すことでアレルギー症状を引き起こすことがあります。
加えて、こうした金属が肌に触れて生じる症状だけでなく、歯の詰め物や義歯などの金属が体内に蓄積して炎症を引き起こす金属アレルギーもあり、やっかいな症状です。
金属アレルギーにより引き起こされる疾患
歯科治療によって引き起こされた金属アレルギーの疾患は、必ずしも金属の触れている口の中に現れる症状だけとは限りませんので、くれぐれもご注意ください。
顔や全身といった直接金属が触れていない部位にも、アトピー性皮膚炎などの症状が現れることがあります。
実際に他のアレルギーを疑われていた患者さまでも、アレルギー外来などで金属アレルギーと診断されて、歯科医院へご来院される患者さまもいらっしゃいます。
ここでは歯科で用いられる材料、歯科金属によるアレルギーが引き起こす症状の中でも特に代表的な疾患を紹介していきます。
顔面・口の中に起こる症状
口内炎とは口の中の粘膜に生じた炎症の総称ですが、金属アレルギーはこうした一般的な口内炎を引き起こすほか、舌に口内炎が現れる舌炎や口臭や歯茎などに変色を起こし、重度の場合は歯を支えている歯槽骨が破壊される歯肉炎、慢性的に口唇(こうしん)が乾燥して亀裂や剥離などを伴う口唇炎を引き起こすことがあります。
また、口腔粘膜での表皮を構成する細胞の大部分を占める角化細胞の慢性的な異常による病変のひとつ、口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)などの原因にもなります。
全身の症状
全身に現れる金属アレルギーの症状としては、かぶれやかゆみなどを伴うアトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、ステロイド皮膚症、扁平苔癬のほか、発疹や湿疹がないのにかゆみが出る皮膚そう痒症などが挙げられます。
手のひら・足の裏、あるいはその近辺に小さな水疱ができてしまう掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)や、脱毛症といった症状も金属アレルギーによって引き起こされることがあります。
金属アレルギーの原因は?
私たちの身の回りにある金属アレルギーの原因についてご参考までに紹介します。
当院ではメタルフリーの取り組みで金属アレルギーの発症のリスクを最小限に留めることで貢献していきます。
アクセサリー類(ピアス・ネックレス・腕時計など)
直接肌に触れることの多いアクセサリーですが、金属に触れる部分の肌が赤く腫れたり、かゆくなったりすることが多くあります。
- ニッケル
- クロム
- コバルト
- プラチナ
などが使われているアクセサリーが原因です。
アレルギー防止などのため金属部分にチタンやセラミックを使った、アクセサリーも増えています。
化粧品
典型的な接触性皮膚炎のひとつである「化粧品かぶれ」ですが、ビューラーやアイライナーの口金やファンデーション容器などの金属の成分に反応して、金属アレルギーが生じる人が多く見られます。
また、色素として使用される材料の中に、不純物としてコバルト・ニッケル・クロムなどがほんのわずかながら含まれていることがあり、これらの金属が原因となることもあります。
衣類・下着
ジーンズのボタンも裏側の金属部分などに反応する人も少なくないようです。
ブラジャーのホックやワイヤーも直接肌に触れやすく、赤く腫れてしまったり、かゆみの原因となります。
布製の絆創膏(ばんそうこう)や厚めの布地を縫い付けたりして、金属と肌が触れ合わないようにカバーすると症状を防止できます。
皮革製品
敏感な方は加工の工程でクロムなどの金属が用いられている皮革製品に反応してしまうことがあります。
直接金属などが触れているわけではないのでわかりにくいですが、腕時計の皮バンド、バッグのストラップなど、直接肌に触れる皮革製品にも要注意です。
携帯電話
メーカー各社の工夫によって最近はプラスチックの膜でコーティングされていますので、以前に比べると減少傾向にありますが、古くなってコーディングがはげてきたりして、地金が露出してしまっている携帯電話には注意してください。
耳や頬など携帯電話機器の当たる部分に炎症が起こされることがあります。
硬貨
ニッケルが使われている50円玉、100円玉、500円玉などの硬貨に触る機会が仕事などで多い方で、金属アレルギーが引き起こされる方もいらっしゃいます。
豆やナッツ
金属アレルギーは、金属が肌に触れて引き起こる症状だけではありません。
豆やナッツ類といった食品にはニッケル成分が多く含まれていますが、そうした成分が汗となって皮膚にしみ出し、汗腺の多い部位にアレルギー反応を起こすケースがあるのです。
また、歯の詰め物などの金属と併せて、金属が体内に蓄積されて、体内で炎症が生じるということもあります。体内に存在する金属が原因となっているため、アクセサリーなどよる金属アレルギーよりも対処が困難です。
症状が出れば歯科金属が原因?
歯科治療後に口腔内に症状が発生した場合、歯科金属との関連性が強くなります。
とはいえ、顔面・口腔内に症状が出たからといって、歯科金属だけが原因とは限りません。
症状を正しく把握し、原因を突き止めるためにも、パッチテストなどのしっかりとした検査をおこなうことが、治療への第一歩といえるでしょう。
アレルギーパッチテストについて
一括りに金属アレルギーといっても、私たちは日常生活のさまざまな場面で、いろいろな種類の金属に触れています。
どのような種類の金属が患者さまの体質にあっていないか、正確に検査して調べることが重要になります。
パッチテスト
お口の中の金属がアレルギーの原因として疑われる場合は、本当に歯科治療で用いられた金属がアレルギーの原因となっているのかを正確に調べるため、歯科用金属シリーズパッチテストという検査を行います。
歯科で用いられる金属をすべて網羅したパッチテストです。
口腔内金属成分検査分析
パッチテストによってアレルゲンとなっている金属元素がわかれば、次は同じものがお口の中にあるかを調べる段階になります。
タービンを利用して金属製の詰め物や義歯の表面を擦るようにして、わずかな金属粉末のサンプルを採取し、分析にかけていきます。
検査自体はお口の中の詰め物や義歯を外すことなく行えるので、万一、アレルギーの原因となっている金属元素ではなかった場合でも、患者さまに余計な負担をかけずに済みます。
アレルゲン除去
分析結果でお口の中の歯科金属がアレルゲンとなっているということが判明すれば、金属製の詰め物や被せ物、入れ歯など原因の金属をすべて取り除いていくことになります。
セラミックやプラスチックなどアレルゲンフリーの素材を用いた交換治療を行います。
アレルゲンフリーの材料
オールセラミックス
近年、歯科では人工ダイアモンドであるジルコニアを使用し、高い強度が維持されたオールセラミックが注目されています。内部にも金属を一切使用していない、セラミックス(陶器)を使用した被せ物です。
白く透明感があり、自然な色合いの歯を表現できるという特徴があり、また、長年の使用でも変色するといったこともありません。
多くの差し歯では歯周病などで歯肉が衰えてしまうと、特有の黒い筋が見えてしまいますが、オールセラミックの差し歯ではそうしたこともないため、審美的に非常に優れています。
金属アレルギーと間違われやすい症状
歯周病や歯性感染病巣といった疾患のほか、香料、食品、化粧品などによる他のアレルギーなども、金属アレルギーと似たような症状を引き起こすことがあります。
金属以外にアレルゲンとなる歯科材料にはホルマリン、レジン、ユージノールがあり、義歯性口内炎、修復物の鋭縁といった機械的刺激による症状もあるので、歯科治療で用いられている金属がアレルゲンとなっているかの診断には、専門的な検査が必要です。
金属アレルギーに対する歯科治療
検査
体質的に皮膚が敏感で弱い方や口内炎などが普段からできやすい方など、全身の健康状態や体質などに基づいて、金属を使用する歯科治療に懸念がある方へ、それぞれのケースに応じた、きめの細かい検査を行っていきます。
パッチテスト
アレルギーを引き起こしている金属を調べるためにパッチテストを行います。
パッチテストにはいくつか種類があり、検査薬が浸透した絆創膏を皮膚に貼って、どういった成分が患者さまの体質に合わないか、アレルギーを引き起こしているかを調べるものなので、金属以外にも歯科用レンジやセメント材といったさまざまな材料で、アレルゲンを特定することが可能です。
診断
金属アレルギーか否かの診断はパッチテストのほかにも、特殊な問診やレントゲン検査、口腔内診査などの結果に基づいて、最終的に下されます。
修復治療・交換治療
さらにお口の中の金属のサンプルを採取し、元素を分析する検査を行って、その金属が体質に合わない種類の金属成分と判明した場合、体質に合った材料に置き換える交換治療や修復治療を行なっていきます。
アフターケア
アレルギー症状は、全身のコンディションによっても大きく影響を受けてしまいますので、通常の歯科治療などと同様、金属アレルギー治療においてもアフターケアが非常に重要になります。必ず定期健診をお受けください。
アレルギー症状の緩和のためには、患者さまご自身が日常の生活習慣などにご留意いただき、健康維持に努めていただくことが必要です。